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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)222号 判決 1961年6月12日

原告 三星商事こと 安田正弘

右訴訟代理人弁護士 朴宗根

同 杉本良三

被告 小林都代

右訴訟代理人弁護士 岡義順

主文

被告は原告に対し金一一万円およびこれに対する昭和三五年一二月二八日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

甲第一号証、成立に争のない乙第一号の一、証人大野光次、同中島成子の各証言に弁論の全趣旨を綜合すれば、被告は、昭和三五年八月中、他から割引を受ける目的で本件手形を含む二四通の約束手形を振出日および受取人欄白地で作成した上、訴外中島成子に預け、割引できることが決つたときに被告自ら白地を補充し、割引できないときは直ちに返還を受ける旨を約して白地補充権を留保したところ、中島はこれら手形を訴外京極土地株式会社に割引のため預けながら右補充権留保の事実を申し伝えず、訴外会社は一通も割引かず、その中の本件手形は、訴外会社によつて受取人欄を補充されて中島へ、中島から原告へと裏書譲渡され、原告は、振出日欄を補充して、満期に支払場所に呈示して支払を拒絶せられたものであることを認めることができ、右認定を左右すべき証拠はない。

すなわち、本件手形は白地補充権の授与がない未完成手形であつて本来は無効のものであり、有効な白地手形として振り出し流通におかれたものではないことは被告主張のとおりである。しかしながら、被告は他日自ら白地を補充した場合に振出人としての責任を負担する意思をもつて記名押印したものであるのみならず、有効な白地手形と外観上なんら異なるところはないのであるから、既に流通におかれ悪意または重大な過失のない取得者を生じ白地が補充されながら、これをあくまで無効の未完成手形とし取得者を無権利者とすることは、手形法における善意取得者保護の規定たる第一〇条、第一六条の法意に反することは明らかである。しかして、原告が本件手形取得に当り、補充権が振出人に留保された未完成手形であつて有効な振出行為がなかつたことにつき、原告に悪意または重大な過失があつたことは本件全立証によるもこれを認めるに足る証拠がないから、ひつきよう、被告は原告に対し本件手形につき振出人としての責任を免れない。

されば原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、なお仮執行の宣言は、これを付せないのを相当と認め、主文のとおり判決する。

(裁判官 立岡安正)

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